2014-12-24

守銭奴は悪くない

ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』の主人公スクルージは金儲け一筋の商人で、人の心の温かみや愛情を理解できない強欲な守銭奴として描かれている。現在主流のケインズ経済学にしたがえば、金を貯め込むばかりで使わないスクルージのような人物は、景気を冷え込ませる元凶でもある。しかし守銭奴には、道徳的にも経済学的にも、悪いところは何もない。

経済学者ウォルター・ブロック(Walter Block)は「守銭奴を擁護する」という文章(邦訳は『不道徳な経済学』所収)で、守銭奴へのいわれなき非難に以下のように反論する。

ケインズ経済学のいう「貯蓄のパラドックス」によれば、貯蓄は個人や家族には理にかなっているかもしれないが、社会全体にとっては愚かなこととされる。なぜなら経済全体で貯蓄が増えるほど、消費への支出が少なくなり、雇用も減るからだという。

しかしこの主張は誤っている。貯蓄は有益である。穀物をすべて食べてしまったら、殖やすことはできない。同様に、富をすぐに使ってしまう代わりに、必要になるまで貯めておく人々がいなかったら、多額の投資で機械や工場をつくることはできず、私たちはこれほど高い生活水準を享受することはできなかっただろう。

これに対し、貯蓄は銀行や証券市場を通じて企業に資金を供給するから有益かもしれないが、守銭奴の多くは手元に金を抱え込むから、その結果、物は売れなくなり、企業の社員は解雇され、経済にとってやはり悪だという意見がある。しかしそれも正しくない。なぜなら価格が変化する可能性を無視しているからだ。

企業は商品が売れなければ、社員をクビにする前に、商品の値段を下げる。商品そのものに問題があるのでないかぎり、商品は売れるようになり、失業と不況の悪循環から抜け出せる。

物の値段を下げても不況にはならない。自動車、テレビ、コンピューターの値段は初期に比べ大きく下がったけれども、それによって不況は起こらなかった。経営が苦しくなるのは、需要が落ちているのに値下げしない企業だけである(参考リンク:「デフレ=大恐慌」は例外 BIS年次報告書の警告)。

現金を貯め込む守銭奴は英雄である。その行為によって物価は下がり、私たちはその恩恵に浴することができる。私たちが保有する現金の価値は高まり、同じ金額でより多くの物が買えるようになる。「守銭奴は社会にとって害悪どころか、恩人である。金を貯め込むたびに、私たちの購買力を高めてくれるのだから」。ブロックはこう締めくくる。

一つだけつけ加えれば、『クリスマス・キャロル』のスクルージはまっとうな商売で稼いでいるのであって、詐欺や強盗などの犯罪とは無縁だ。むしろ人の死のどさくさに紛れて財産を盗み、その手柄を誇る悪党どもに対し「見下げ果てた外道ども」と激しい怒りを燃やす。正義感の強い、平和を愛する人物なのである。クリスマスには、スクルージと世界中の守銭奴たちに乾杯しよう。

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